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雑多な覚え書きと日常

ミュージカル『ラグタイム』感想

芳雄さんが出演していなかったら観ていたかわからない、でも観て良かった作品なので、その感想です!

そういう作品に出会えた時って、観劇していてとてもうれしい時。

 

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あらすじ、キャスト、製作陣くらいしか調べてこなくて、どうだろう、と思いながら最初は観ていたのですが、それぞれ別々にあった登場人物たちの人生が重なり合ううちにしだいに惹かれていきました。

群像劇的な良さ!

 

そしてこの作品は音楽の使い方がとても良くて、ミュージカルとして数々の楽曲や、歌うまキャストによる歌唱が素晴らしかったのはもちろんのこと、コールハウスの弾くピアノのメロディーが切なくて優しくて素敵。

 

コールハウスの弾くピアノの演奏が人々を惹きつけたことにも納得がいき、コールハウスの演奏で一気に空気が変わってからサラと再会するまでがとても美しくて、2幕でマザーがコールハウスの演奏を思い出しているシーンが悲しくて温かくて.......

物語の中でのあの音楽の存在感が良かったです。

 

芳雄さんのコールハウスは、全然黒人には見えないけど(笑)、黒人として生きることの葛藤がすさまじく伝わってきて、そして、武器による復讐をやめ、法廷で真実を話そうと決意し、同胞たちを説得する場面では歌と共にものすごく心を動かされました。

 

あの場面はまさに芳雄さんで見られて良かった。

極端な復讐の道に走っても、そこにはいつも真っ直ぐな感情や、あらゆる葛藤の末に考え抜いた結果がある。彼はただ、理不尽に大切なものを奪われて踏み躙られることが許せなかっただけ......

 

それだけ心を動かすコールハウスが命を絶たれる場面はとても苦しくて、訴えかけてくるものがありました。

 

悲しみ、怒り、やるせない現実を叩きつけてくる作品。

だけどだからこそ、ターテとマザーと子供たちのあのラストシーンに感じられる祈りが優しくて美しい。

 

こういう、現実にある怒りや悲しみを真摯に描きながら、その先への祈りがある作品は、私はとても好きです。

 

ターテは最初石丸幹二さんだとわからないくらいのみすぼらしい姿で、逆境の中の悲壮感が身に迫ってきました。でも、マザーとの初対面時に上品でお茶目な挨拶をするシーンなど、この人は本来は豊かな心の持ち主なんだな......と自然と思わせてくるものがありました。だからこそ、ラストシーンで彼の思い描く世界に希望を馳せたくなる。

また、話が進むごとにハンサムさが頭角を表してきて、マザーとのやりとりも素敵でした。

絶望も希望もハンサムも見事に表現できるのはさすが石丸さん!

 

安蘭さん演じるマザーは優しさとしなやかな強さで周囲を包み込み、この苦しみがあふれる作品の中での光として存在していて、この作品の持つ温かさも彼女によって作られているものが大きいと思いました。

 

遥海さん演じるサラは力強く感情豊かな歌声や瑞々しい空気感と共に、必死で生きているのが伝わってきました。

彼女の辿る運命は過酷でそして儚いものだったけれど、強い情念をもってして物語に大きな爪痕を残していました。

 

川口竜也さん演じるファーザーはいかにも古い時代の傲慢な白人家長という感じで、あの頑なな傲慢さも、終盤にみられる心境の変化が見える様子も表現が素晴らしく、コールハウスとの最後の対話はとても感動的でした。

 

東啓介さん演じるヤンガーブラザーは、物語の中で強い光を放っていて、でもマザーやターテのそれとは違い、真っすぐな危うさがある……

あの若々しく純粋な正義感や危うさを見せるお芝居がとてもよかったです。

 

あと、個人的に土井ケイトさん演じるエマ・ゴールドマンが好きでした。

とにかくかっこよくて、ターテたちへの温かいまなざしも素敵で、演説のシーンは思わず感化されそうになる……

終盤にアナーキストとしての自身の行く末をさらっと悟ってるのも好き。

 

全体を通してカンパニーの持つ力を感じ、このカンパニーで、これだけ訴えかけてくる作品を観られたことが本当に良かったと思います。

遠い国の遠い時代の話ではあるけれど、決して他人事ではないし、差別というテーマは普遍的で、それについて考えなくてもいい日はまだ来ていない。

この作品に触れられたことが、素晴らしい機会だと思いました。